【令和9年1月】標準報酬月額の特例改定とは?要件と届出を社労士が解説

【令和9年1月施行】療養・育児・介護による標準報酬月額の特例改定とは?要件・届出・試算例を社労士が解説 | なわ社会保険労務士事務所
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法改正/令和9年1月1日適用

療養・育児・介護で給与が下がったら
翌月から社会保険料を下げられる
「標準報酬月額の特例改定」が始まります

時短勤務に切り替えても、社会保険料が下がるのは4か月目から——。この3か月の待ち時間を取り払う特例が、令和9年1月から始まります。対象となる範囲、支払基礎日数の独自ルール、そして本人同意が必要とされる理由まで、実務担当者が押さえるべき点を整理しました。

三郷市・吉川市周辺の顧問先から、毎年のようにいただくご相談があります。

  • 育休から復帰して時短にしたのに、社会保険料が前のままで手取りがほとんど残らない
  • 親の介護で残業をやめたら、給与は減ったのに保険料だけ高いままなんです
  • 治療しながら働きたいのに、これでは生活が成り立たない

収入は減っているのに、3か月間は減る前の保険料を払い続ける。この状態に合理的な説明をつけるのは、正直なところ難しいものがありました。

令和9年(2027年)1月1日から、この待ち時間を取り払う特例が始まります。厚生労働省が令和8年7月31日付で通達を発出しています。

適用開始日にご注意ください

通達は令和8年7月31日付で出ていますが、実際に使えるようになるのは令和9年(2027年)1月1日からです。

01まず、これまでの随時改定の仕組み

社会保険料は、実際の給与そのものではなく、給与を区切りのよい幅にあてはめた標準報酬月額(健康保険は第1級から第50級、厚生年金保険は第1級から第32級)をもとに計算します。

この標準報酬月額を年の途中で変えるのが随時改定(月額変更届)です。健康保険法第43条第1項、厚生年金保険法第23条第1項に根拠があり、要件は3つあります。

  • 基本給や手当など固定的賃金に変動があること
  • 変動後3か月の報酬の平均から算出した標準報酬月額が、従前と2等級以上違うこと
  • その3か月とも支払基礎日数が17日以上あること

この3つを満たしてはじめて、変動月から数えて4か月目に改定されます。

つまり4月から時短に入って給与が減っても、4月・5月・6月の3か月を見届けてから、改定されるのは7月分の保険料から。それまでの3か月は、減る前の高い標準報酬月額で保険料が引かれ続けます。今回の特例が縮めようとしているのは、まさにこの3か月です。

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02特例改定で何が変わるのか

今回の特例は、健康保険法第44条第1項・厚生年金保険法第24条第1項の「保険者算定」という規定を使って、報酬が減った月の翌月から標準報酬月額を改定できるようにするものです。

固定的賃金の変動があったかどうかは問いません。所定労働時間の短縮そのものが対象になります。

通常の随時改定と特例改定の比較
通常の随時改定特例改定
根拠健保法43条1項・厚年法23条1項健保法44条1項・厚年法24条1項
固定的賃金の変動必要不要
報酬の確認期間3か月の平均減った初月のみ
必要な等級差2等級以上2等級以上の低下
改定時期変動月の4か月目減った月の翌月
本人同意不要書面で必要
通常の随時改定には影響しません

この特例措置は通常の随時改定とは別途の取扱いとして特例的に整理されたものであり、通常の随時改定に適用されるものではないとされています。

03対象になる3つの要件

健康保険・厚生年金保険の被保険者および厚生年金保険の70歳以上被用者のうち、次の3つすべてに該当する方が対象です。

特例改定の適用要件
要件
要件1療養・育児・介護と仕事を両立するための就労調整が行われていること
要件2その就労調整により報酬が急減し、急減後の報酬の総額をもとにした標準報酬月額が従前より2等級以上低下し、かつその状態が3か月以上続くことがあらかじめ見込まれること
要件3この特例による改定を行うことについて、対象者が書面で同意していること
「続く見込み」で判断できます

要件2は「実際に3か月続いた」ではなく「続くことが見込まれる」で判断します。3か月待つ必要はありません。

04療養・育児・介護の具体的な範囲

要件1にある「療養・育児・介護」は、それぞれ次のように整理されています。

対象となる事由の範囲
区分対象となる場合
療養本人が傷病の治療等を受ける場合、または家族の治療等に伴って本人が看護などの対応をする場合
育児小学校就学前の子を養育する場合
介護介護保険法に基づく要介護認定または要支援認定を受けている家族を介護する場合
育児は「小学校就学前」まで

養育特例(養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置)が3歳未満を対象としているのに対し、こちらは小学校就学前までと広くとられています。実務上、これはかなり大きな違いです。3歳を過ぎて時短を続けている社員も対象になります。

育児休業の取得は要件ではありません

要件をご覧いただくとわかるとおり、育休を取っていなくても対象になります。育休を取らずに時短勤務へ切り替えた場合でも、小学校就学前のお子さんの養育のためであれば検討できます。

05改定後の額と、支払基礎日数の数え方

改定後の額は「初月の報酬総額」

改定後の標準報酬月額は、報酬減となった初月に受けた報酬の総額をもとに決まります。3か月平均ではありません。

支払基礎日数には独自ルールがあります

ここがこの特例の特徴的な部分です。

下げるとき(減額改定)の数え方

減った初月について、就労調整により勤務しなかった日があっても、所定労働日数に変更がなく使用関係が続いているなら、その日も支払基礎日数として数えてよいことになっています。

それでも対象外になるケース
  • 上記の数え方でも17日(法律上11日とされている短時間労働者は11日)に届かない月
  • 初月にまったく勤務せず、報酬が一切支払われなかった場合(「両立しているとは言い難い」ため)

時短勤務で日数自体は変わらないケースが多いため、この緩和はありがたい規定です。一方、休職に近い状態で報酬がゼロの月は対象になりません。

06届出の実務

手続きは事業主が行います。

  • 被保険者報酬月額変更届(特例改定用)申立書兼同意書を添えて提出
  • 提出先は事務センターまたは年金事務所
  • 健康保険組合が管掌している場合は、同時に組合にも提出が必要
  • 健康保険と厚生年金保険の両方で同時に手続きすることが求められる
申立書のチェック漏れに注意

申立書のチェックがないと返戻されます。様式の記載漏れは差し戻しの原因になりますので、提出前の確認をおすすめします。

07いくら変わるのか(試算例)

数字で見たほうがイメージしやすいので、一例を挙げます。

試算:標準報酬月額44万円の方が28万円に下がった場合

厚生年金保険の標準報酬月額が44万円(第25級)の方が、令和9年4月から介護のために時短勤務に入り、4月の報酬が28万円(第18級)まで下がったとします。7等級の低下です。

通常の随時改定なら、4月・5月・6月の平均を見て改定されるのは7月分の保険料から。特例を使えば、4月の報酬総額をもとに5月分から改定されます。

厚生年金保険料の本人負担は保険料率18.3%の半分、9.15%です。

44万円 → 月40,260円
28万円 → 月25,620円
差額 → 月14,640円

5月分と6月分の2か月分が早く軽くなるので、厚生年金だけで29,280円。これに健康保険料と介護保険料の差額も乗ってきます。

下がることの跳ね返り

一方で、標準報酬月額を下げると将来の給付にも影響します。

老齢厚生年金への影響

老齢厚生年金の報酬比例部分は「平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 加入月数」で計算されます。

標準報酬月額が16万円低い月が12か月あると——

160,000円 × 5.481/1000 × 12か月 = 年間およそ10,500円

この額が、老齢厚生年金から生涯にわたって減る計算になります。

08なぜ本人の書面同意が必要なのか

要件3として本人の書面同意が求められている理由は、いま見た「跳ね返り」にあります。

特に見落とせないのが傷病手当金と出産手当金です。どちらも支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均を30で割り、その3分の2が日額になります。

説明すべき構造

療養と仕事を両立している方が、後に休職して傷病手当金を受けることになったとき、標準報酬月額を下げておいたことがそのまま給付額の目減りになります。

書面同意が要件になっているのは、この構造を本人にきちんと説明させるためです。説明せずに同意書だけ取るのは、後々の紛争のもとになります。

影響を受けるもの

  • 老齢厚生年金の額
  • 傷病手当金の日額
  • 出産手当金の日額
  • 障害厚生年金・遺族厚生年金の額
特に慎重な説明が必要なケース

第2子の妊娠が視野にある方(出産手当金に直結)、持病があり傷病手当金の受給可能性がある方、年金受給開始が近い年代の方。目先の手取りだけで判断すると、後で不利益に気づくことになります。

09働き方を戻すときの届出義務

この制度は、下げるときだけのものではありません。

2等級以上上がったら届出が必要です

就労調整が終わって報酬が戻り、改定後の標準報酬月額より2等級以上上がったときは、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、速やかに届け出て、報酬が増えた初月の報酬総額で改定し直します。

上げるときは支払基礎日数の扱いが違う

ここは注意が必要です。下げるときは「就労調整により勤務しなかった日も数えてよい」という緩和がありましたが、上げるときは報酬支払いがなかった日を支払基礎日数に数えません。

下げ方向より上げ方向のほうが厳しい、というのが実態です。

実務対応のポイント

特例改定を適用した従業員については、就労調整の終了予定時期を管理台帳に記録しておくことをおすすめします。時短勤務の期間満了や勤務時間の変更申請と連動させておくと、届出漏れを防げます。

10育児休業等終了時月変との使い分け

育児に関しては、すでに育児休業等終了時報酬月額変更届(健康保険法第43条の2、厚生年金保険法第23条の2)があります。今回の特例が加わることで、選択肢が増えることになります。

育休終了時月変と特例改定の比較
育休終了時月変特例改定
きっかけ育休からの復帰療養・育児・介護による就労調整
育休の取得必要不要
対象となる子——小学校就学前
報酬の算出復帰後3か月の平均減った初月のみ
必要な等級差1等級以上2等級以上の低下
支払基礎日数17日未満の月は平均から除く(3か月のうち1か月以上17日あればよい)初月が17日以上必要(短時間労働者は11日)
改定時期復帰後4か月目減った月の翌月
起点本人の申出本人の書面同意+事業主の届出

等級差が1等級にとどまる場合は育休終了時月変しか使えません。2等級以上下がる場合は特例改定のほうが早く効きますが、その分だけ将来の給付への影響も早く出ることになります。

対象になりそうな従業員がいる事業所様へ

この特例は、事業主が届け出て初めて動きます。会社が制度を知らなければ、対象者がいても何も起こりません。本人が年金事務所に相談しても、事業主の届出がなければ改定されない仕組みです。

「うちの時短勤務の社員は対象になるのか」「育休終了時月変とどちらを使えばいいのか」——判断に迷う段階でご相談ください。本人説明用の資料や同意書の様式についても、弊所で整備してお渡しできます。

現在の給与台帳や勤務時間の変更申請書を、そのまま三郷市谷中13番地31(なわ社会保険労務士事務所)宛に郵送いただいてからお電話いただいても構いません。実物を見ながら一緒に確認します。

Q&Aよくあるご質問

Q
いつから使える制度ですか
A
令和9年(2027年)1月1日からの適用です。通達は令和8年7月31日付で発出されています。
Q
育児休業を取っていない社員も対象になりますか
A
はい。育休の取得は要件ではありません。小学校就学前のお子さんを養育するために所定労働時間を短縮した、時間外労働をやめたといった就労調整があり、標準報酬月額が2等級以上下がれば検討できます。
Q
3歳を過ぎた子の時短勤務でも使えますか
A
はい、小学校就学前までが対象です。養育特例(従前標準報酬月額のみなし措置)が3歳未満までであるのに対し、この特例は対象範囲が広くとられています。
Q
家族の看護のために時短にした場合も対象ですか
A
対象になります。療養には、本人が傷病の治療等を受ける場合だけでなく、家族の治療等に伴って本人が看護などの対応をする場合も含まれます。
Q
時短で欠勤日が増えると、支払基礎日数が足りなくなりませんか
A
減額改定の場合は、就労調整により勤務しなかった日も、所定労働日数に変更がなく使用関係が続いていれば支払基礎日数として数えてよいとされています。ただしそれでも17日(短時間労働者は11日)に届かない月、および初月にまったく勤務せず報酬が一切なかった場合は対象外です。
Q
会社が勝手に手続きしてもいいですか
A
いいえ。本人の書面同意が必須です。将来の年金額や傷病手当金・出産手当金が下がる影響がありますので、その構造を説明したうえで同意を得る必要があります。説明せずに同意書だけ取るのは避けてください。
Q
時短をやめてフルタイムに戻ったらどうなりますか
A
標準報酬月額が2等級以上上昇する場合は、速やかに届け出て改定し直す必要があります。固定的賃金の変動は問われません。なお上げるときは、報酬支払いがなかった日を支払基礎日数に数えないため、下げるときより要件が厳しくなります。
Q
育休から復帰する社員には、どちらを使うべきですか
A
等級差が1等級にとどまる場合は育休終了時月変しか使えません。2等級以上下がる場合は特例改定のほうが早く保険料が下がりますが、将来の給付への影響も早く出ます。本人の今後の予定(第2子の希望など)も踏まえて判断する必要がありますので、個別にご相談ください。

この記事のまとめ

  1. 令和9年(2027年)1月1日から、標準報酬月額の特例改定が始まる
  2. 報酬が減った翌月から改定できる(通常の随時改定は4か月目から)
  3. 要件は「就労調整」「2等級以上の低下が3か月以上続く見込み」「本人の書面同意」
  4. 療養は家族の看護も含み、育児は小学校就学前、介護は要介護・要支援認定を受けた家族
  5. 育児休業の取得は要件ではない
  6. 改定後の額は減った初月の報酬総額。3か月平均ではない
  7. 減額時は就労調整による不就労日も支払基礎日数に数えてよいが、17日未満・報酬ゼロの月は対象外
  8. 2等級以上戻ったら届出義務あり。増額時は支払基礎日数の数え方が厳しくなる
  9. 老齢厚生年金・傷病手当金・出産手当金が下がるため、本人への説明が不可欠
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対応
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出典
  • 厚生労働省「療養、育児又は介護により報酬が急減した者についての健康保険法及び厚生年金保険法の標準報酬月額の保険者算定の特例について」(令和8年7月31日 保保発0731第4号・年年発0731第1号・年管管発0731第7号/令和9年1月1日適用)
  • 日本年金機構「随時改定(月額変更届)」「定時決定(算定基礎届)」「保険者決定」
  • 日本年金機構「育児休業等終了時報酬月額変更届の提出」
  • 健康保険法第43条・第43条の2・第44条/厚生年金保険法第23条・第23条の2・第24条