【賞与の減額】「ボーナスなし」は違法?問題社員の査定を下げるための法的ルールと実務
こんにちは。社会保険労務士のなわです。
「勤務態度の悪い社員がいるから、今回のボーナスは大幅にカットしたい」
「賞与は会社の恩恵的給与だから、社長の裁量で自由に決めていいはずだ」
経営者の皆様からよくこのようなご相談をいただきます。
確かに、賞与(ボーナス)は毎月の給与とは異なり、会社の業績や個人の評価によって変動する性質のものです。
しかし、「賞与=会社の好きにしていい」と考えるのは非常に危険です。
実は、会社が決定した賞与額に対して、裁判所が「裁量権の濫用(やりすぎ)」と判断し、本来支払われるべきであった差額の支払いを命じるケースが増えているのです。
今回は、問題社員の賞与を減額する際に、経営者が絶対に踏んではいけない3つの地雷と、適法に評価を下げるための実務ルールについて解説します。

賞与は「完全に自由」ではない
まず大前提として、就業規則に「賞与は業績および勤務成績を勘案して決定する」といった規定がある場合、会社には「いくら払うか」を決める裁量権(決定権)があります。
しかし、裁判所はこの裁量権に限界を設けています。 これを「裁量権の濫用(らんよう)法理」と呼びます。具体的には、以下の3つのケースに該当する場合、その査定は「不当査定(違法)」とみなされます。
1. 事実認定の誤り:「ミスをした」という事実がないのに減額した。
2. 合理性の欠如:事実に対して、減額幅が異常に大きすぎる(バランスを欠く)。
3. 手続違反:会社の決めたルール(評価項目や期間)を守っていない。
これらに違反すると、会社は損害賠償(本来払うべきだった賞与との差額)を支払わなければなりません。
裁判で負ける「3つのNG査定」パターン
実際の裁判例(プロッズ事件、キムラフーズ事件など)から、やってはいけない減額パターンを解説します。
NG1:証拠がないのに「ミス」を理由にする 「あいつがミスをして損害が出た」と社長が思い込んでいても、客観的な証拠がなければ裁判では認められません。
例えば、ある社員のミスで会社に損害が出たとして賞与を減額した「プロッズ事件」では、裁判所は「具体的にその社員がどう関与したか不明」「故意や重過失があったとは言えない」として、減額を違法と判断しました。 「なんとなくあいつのせいだ」では通用しません。「いつ、どこで、どんなミスをしたか」を記録に残していないと、減額の根拠として使えないのです。
NG2:評価対象期間「外」の事情を持ち出す 「昔あんなことをしたから」「入社時の態度が悪かったから」といった過去の事情を蒸し返すのはルール違反です。
「マナック事件」では、数年前の経営陣批判を理由に、何年も賞与を支給しなかったケースで違法と判断されました。 賞与はあくまで「今回の査定対象期間(例:4月〜9月)」の働きに対して支払われるものです。期間外の事情を混ぜてはいけません。
NG3:評価項目にない理由で下げる 就業規則や賃金規程で決めた「ルール」を会社自身が破るケースです。
例えば、規程を改定して「勤務態度」を評価項目から外したにもかかわらず、態度が悪いことを理由に減額したケースでは違法となりました(キムラフーズ事件の関連事例)。 「協調性」や「勤務態度」で評価したいのであれば、必ず評価シートや規程にその項目を設けておく必要があります。

適法に減額するための「鉄則」
では、勤務態度の悪い社員に対し、適法に厳しい査定(減額)を行うにはどうすればよいのでしょうか。
鉄則1:「指導記録票」を残す(最重要) 「言った言わない」を防ぐために、問題行動の記録は必須です。 メモ程度でも構いませんが、以下の5W1Hを意識して記録してください。
• いつ(日時)
• どのような問題行動があったか(具体的ミス、暴言の内容)
• どのような指導をしたか
• 本人の反応(反省の有無、弁解)
これが裁判における「最強の証拠」になります。これがあれば、「事実認定の誤り」を防ぐことができます。
鉄則2:合理的な理由を説明できるようにする 特定の社員だけ極端に査定を下げる場合(例:平均は2.0ヶ月分なのに、その社員だけ0.5ヶ月分など)、「なぜそこまで低いのか」を第三者に説明できなければなりません。 「なんとなく気に入らない」は通用しません。「○○のミスにより業務が××時間遅延した」「指導を〇回無視した」といった客観的な事実が必要です。
鉄則3:規定に「不支給条項」を入れる 著しい問題社員については、そもそも「支給しないことがある」と明記しておくことがリスクヘッジになります。
規定例: 「勤務態度の不良や協調性の欠如が著しい従業員、規律違反行為があった従業員については、賞与を支給しないことがある」
ただし、この場合も「著しい不良」を証明するための記録が必要であることは変わりません。

人事考課制度がない会社は要注意
人事考課制度(評価制度)自体がない会社の場合、特定の従業員だけ極端に減額することは非常に難しくなります。 なぜなら、どの項目をどう評価したかの基準が不明確なため、「なぜ下げたのか」を合理的に説明できないからです。
基準がない状態で恣意的に下げることは、不当査定とみなされるリスクが高まります。 最低限の評価ルールを作るか、あるいは全員一律に近い支給にならざるを得ないことを理解しておく必要があります。
まとめ
賞与は会社に一定の裁量がありますが、「証拠なし」「ルール無視」の減額は違法となります。 感情的に「ゼロだ!」と叫ぶ前に、以下のステップを踏んでください。
1. 日々の問題行動を「記録」する。
2. 査定対象期間「内」の出来事か確認する。
3. 極端な減額をするなら、その「合理的理由」を準備する。
「この社員のケースで減額しても大丈夫か?」「指導記録の書き方がわからない」という場合は、賞与支給日が来る前に、ぜひ一度当事務所にご相談ください。



